泥沼記

バリー・シール/アメリカをはめた男(2017年)

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序盤はトム・クルーズウルフ・オブ・ウォールストリートっぽいなぁと思っていたが、個性的で面白い展開の作品だった。一見の価値あり。

ノリの良い音楽や所々入るレトロな映像効果が見ている者を飽きさせない。テンポも良く見やすい作品。

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終始明るい作風で、老いても衰えを知らないトム・クルーズの輝く笑顔が印象的な作品。メデジンカルテルの面子ですら信用しきる人誑しなバリー・シールを好演していた。

 

クライマックスでは悲劇的なストーリーと、あくまで明るい演出や彼の人の良さとのギャップにかなりグッとくるものがある。ウルフ・オブ・ウォール・ストリートとは違って、転落していく彼を妻が慕い続ける様子も見ていて非常に悲しい。この辺りが他の成り上がり転落作品とはひと味違うところ。

油断していると家族と最後のひと時を過ごすバリーの悲しげな表情や、車のエンジンに恐怖しながらもひた向きに生き続ける姿に持っていかれる。

腕前を買われて、わらしべ長者的に逮捕を免れ政府に雇われ続けた一見強運に見える彼なので、最後ももしかしたら生きているのではと期待してしまったがそんなことはない。政府に利用されて犠牲となる悲劇が明るい作風とのギャップで胸に刺さる。麻薬の密輸をしたとはいえ断っていたら殺されていたかもしれないし、カルテル証拠写真を命懸けで撮ったのだから彼を責める気にはなれない。

 

アバウトタイムやハリーポッターのドーナル・グリーソン演じる、バリーを政府の仕事に引き込んだCIA職員「シェイファー」は頭でっかちで偉そうなCIAの役人ではなく、なかなか話のわかる男。子どもっぽく隣のブースのライバル職員と喧嘩する様子からもバカらしく親しみやすい印象を覚える。

しかし、その実は仕事のためなら人を人とも思わない中々のサイコパスで、バリーの死に動揺しているかと思いきや全く意に介さず意気揚々と次の作戦を提案する姿が印象的。

リアルな出世に燃えるCIA職員という感じで面白かった。リアルだけど今までに意外となかったキャラ付けで新鮮。

 

パブロ・エスコバルが出てくるということで今気になっている『潜入者』の前座として見た作品だったが、見ておいてよかったと思える完成度の高い映画だった。

 

ところで邦題の「アメリカをはめた」というのは武器をカルテル横流しして、更に麻薬の密輸でカルテルの財政を潤わせたところから来ているのだろうか。カルテルサンディニスタ民族解放戦線の資金源だったわけだし。

アメリカをはめてスカッと終わる作品ではないので何となくモヤモヤしてしまう…。