泥沼記

血と骨

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ビートたけし主演。

 

幼少期、テレビでやっていた菊次郎とさきを祖母や母と見ていた時期がある。内容は殆ど覚えていなくて、なんとなく玄関と畳の間を映したカメラアングルが続いていたのを覚えている程度。それでも強烈で理不尽な菊次郎のオヤジ像は子供心に焼き付いていて、父との縁が薄かった自分は一層オヤジ像を植え付けられたのかもしれない。

 

フラッと帰ってきては無茶苦茶なオヤジ、菊次郎。たけしが演じていることもあり、今作の俊平にもそんな印象を受けた。(流石に遠い記憶の中で菊次郎が極悪化しすぎか)

 

中盤のお互いの家を破壊し合う金親子。真っ向から喧嘩を挑んでも敵わないことを悟ったマサオの、初の反抗の成功に彼を心から応援している自分がいる。それくらい俊平の傍若無人さは見ていて腹が立つ。

しかし俊平の生き様に感心してしまう所も多い。戦後のゴタゴタを蒲鉾屋や金貸しでのし上がっていき、半身麻痺してもなお図々しく世渡りを続けるバイタリティには目を見張る。弱り切って今までの恨みを晴らされ続けるのならば後味が悪いが、ここまで一貫して図々しい人間を見ると逆に気持ちがいい。

 

マサオの姉、ハナちゃんは夫・新井のDVを苦に自殺してしまう。その葬式で新井に苦言を呈するマサオ。俊平のように新井をどつきまわせ!と心の中で願ってしまうし、そこに嵐のように登場する俊平には頼もしさを感じてしまった。

 

俊平はやりたい放題のクズ野郎ではあるが、決して人に媚びず、金への執着と性欲がすこぶる強いところを見ていると、ある意味人間らしさの塊なんじゃないかと思えてくる。彼のことを憎らしくも感心してどこか愛着を持ってしまうのはその為なのかもしれない。

 

今作のたけしは本当に名演。俊平のモンスターっぷりは画面越しとは思えないほどビンビン伝わってきたし、意外と太い腕っぷしや分厚い胸板、広い背中には喧嘩が強い、絶対に勝てないオヤジとしての説得力があった。終始怖い顔をしているものの、今にもオイラと言っちゃいそうなお茶目な人間臭さをほんの少しだけ感じる絶妙な演技だった。

 

 

意外な収穫?としてはオダギリジョー北村一輝のカッコいいヤクザ姿。特に北村一輝は序盤の高い声の関西弁がかなり面白かった。

工場の扉を破られそうになった國村隼が慌てて、これまた高い声で叫ぶ所も、普段静かな声で話す國村さんとのギャップで笑ってしまう。

後半の葬式のシーンもそうだが、アウトレイジのように本人たちは怒ってて大真面目だけどバカらしくて笑ってしまうところも時々あって、終始重苦しい本作では良い息継ぎになっていた。