泥沼記

七人の侍(1954)

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60余年もの時を越えて人気の衰えない名作だけあって、見どころは満載。シリアスな展開だけではなく娯楽として楽しめるシーンも多くあるため、モノクロで3時間を超える長尺でも全く苦にならない。

 

※以下ネタバレあり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前半の「仲間集め」は時代劇らしい明るさでほっこりできるし、後半の馬を最大限に活かしたアクションシーンは超スリリングで楽しい。マネキンが引き摺られるようなシーンでも凄くリアルに見えるのはモノクロの良さ。

『マッドマックス 怒りのデスロード』でオマージュされているシーンなんかもあって、今の世代が見ても楽しめる。昔の映画のオマージュってこういう楽しみ方を与えてくれるんだなぁ…。

 

昭和の時代劇といっても描かれる人間ドラマは芝居がかったものではなく、とても生々しい。

前半では農民という身分の悲惨さが描かれるものの、侍に助けを求めた彼らが過去には「落ち武者狩り」をしていたり、最後の最後まで酒や食料を隠していたりと農民の姑息な一面も描かれているのは面白いところ。この農民の「胡散臭さ」は、ハッピーエンドとは言えない後を引くエンディングにも繋げられていた。

農民と武士の若者達によるロマンス要素もある。野武士との合戦を前に身分の差を考えず恋に落ちる2人の様子は、現代人が見てもグッとくるものだった。

 

個人的に今作では三船敏郎よりも、志村喬が演じる島田勘兵衛に強い魅力を感じた。坊主頭を撫でる仕草や表情からは温厚な印象を受けるが、歩き方や眼光にはただならぬ威圧感がある。一国一城の主を夢見ていただけあって「人を統率する」能力は相当のものなのだろう。最終的には勝四郎が久蔵に靡いていたのは、勘兵衛の敏腕すぎる指揮官っぷりに引いてしまい、同じ凄腕でも人間味のある久蔵に惹かれたからかもしれない。

三船敏郎演じる菊千代のキャラの濃さにはちょっと馴染みにくさを感じて、昔の映画だからクセが強いのかと思ってしまったが、彼が農民の生まれだと知ってからは納得できた。このように侍から見た農民達の胡散臭さは至る所から観る者に伝わってくる。

エンディングで、侍だけでなく自分たちの仲間や長老までもが死んだにも関わらず、陽気に歌いながら田植えをする農民達は「仲間の死を乗り越えた」というよりは、あまり深く気に留めていないように見える。まるで野生の生き物のように、深い感情を持たずいつも通りの生活に戻っている様子がなんとも不気味だった。勘兵衛が「侍達の負け戦」「農民の勝ち」と考えたのは、農民と侍は同じ人間でありながら異なる存在であると悟ったからかもしれない。

 

 

映画好きとしては黒澤明監督の作品はいつか見ていきたいとは思っていたんだけど、モノクロ映画であることや重苦しそうなイメージを勝手に抱いていたことから中々手が出ずにいた。『Ghost of Tsushima』の発売はそんな僕に黒澤映画を見る良いきっかけを与えてくれた。サカパンに感謝。