泥沼記

傷だらけのふたり(2015)

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単純な甘ったるい恋愛ドラマとは一味違う、素晴らしい映画だった。観客の心を掴むのが非常にうまく感情移入しっぱなし。展開も意外に目まぐるしく見ていて全く退屈しなかった。

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファン・ジョンミンの演技力に感服の2時間。粗野でバカ丸出しのテイルがホジョンに言い寄っていく様子は、思春期の中学生のような不器用さで見ていて小っ恥ずかしくなってしまう。とはいえ、そんなテイルのことを完全にはバカにできないのは大袈裟すぎる振舞いの中に何となく思い当たる経験があるからだろうか。誰もが少しは共感してしまう、惨めすぎはしない絶妙なバランスで、恋愛下手なテイルにいつのまにか感情移入している。

 

テイルの恋が成就したと思った次の瞬間には大きな展開を見せるこの作品は見ているものを全く退屈させない。少しくらいはのんびりイチャイチャしているところを見せられても文句は言わないのに常にこちらの感情を揺さぶってくる。この辺の時系列の変え方が非常にうまかった。

 

自分の死期を悟った男のバカすぎる失敗も愛する人を思えばこそ。残された短い時間を細々と一緒に過ごすのは幸せに決まっているが、自分が死んだ後も相手が余裕のある暮らしを送れるようになるなら、その可能性に賭けてしまう気持ちもわかる。お人好しで学のないテイルのことだから呆気なく騙されてしまうのも仕方ないと思える。

 

ホジョンが父の看病に苦しんでいるところを目の当たりにしていた分、他ならぬ自分の看病で苦しませたくないというテイルの強がりは、思わぬ形でほどけてしまう。お互いが感情を露わにただただ泣き続けるシーンでは明らかにファン・ジョンミンの方を映している時間が長い!

泣きのシーンは女性という常識を覆すテイルの少年のような泣き顔が本当に感動的で、強がっていたテイルの虚勢が崩れ去る非常に哀しいシーンだった。本当はホジョンと過ごしたいのなんて当たり前だけど、ホジョンを想うと本当のことなんて言えるわけがなかったのだ。

 

恋愛ドラマだけでなく家族ドラマも丁寧に描かれていて、こちらも十分すぎるほど感動的。痴呆症になりつつある父に申し訳程度の親孝行をするテイルの虚しさや、文句を言いつつ弟を決して追い出しはしない兄との距離感も絶妙。

 

もはや食卓でホジョンが屁をこくシーンから泣き始めているこちらとしては、いつ終わってくれても満足なのだがしっかりと綺麗に締めくくってくれるところも素晴らしい。

 

映画でこんなに泣いたのは何年振りだろうか。展開の面白さ、感情移入のしやすさ、そしてファン・ジョンミンの演技力がしっかりまとまってハイレベルな映画になっていた。韓国映画、どのジャンルでもレベルが高いねー。